一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

フォト散歩

平成29年9月1日掲載

南埜 宜俊

大阪大学大学院工学研究科
知能・機能創成工学専攻
教授

 

 3年前まで、趣味といえるものがなく暮らしていたが、そのちょうど3年前に、カメラに「はまって」しまった。それまでは、安物のコンデジ(コンパクトデジカメ)で、バスなどの時刻表のメモ、議論で黒板に書き込んだ式や図の記録、家族、旅行時の景色などを無造作に撮影していたが、ある晴れた日曜日に庭の花々を撮影してみたとき、この世で見たこともないほど非常に美しいものが撮れたと錯覚し、その瞬間、自分って“才能あるかも”と思い込んでしまった。そして急な坂道や滝を落ちるようにカメラに「はまって」しまい、一気に、デジイチ(デジタル一眼レフカメラ)とレンズ一式を購入し揃えてしまった(今なら、最新大型液晶テレビが3台程度購入できる金額の出費に家内が怒りもしなかったのが不思議・・・)。現在のデジイチは2代目で、また、大学の写真展を見てくださった先輩よりデジイチとレンズを無償で譲り受けたり、また、家内用に(あろうことか、現在、家内もカメラ趣味を持っている)デジイチ1台を購入するなど、リビングに置かれた防湿庫にデジイチ4台と無数のレンズ(20本程度)が鎮座している。写真は機材ではなく腕であることは重々承知しているのだが、機材は増殖中であり、新しい防湿庫を購入しないといけないかな・・・と思い始めている。

 その「はまって」しまった頃、上の子供が就職したり下の子供が大学に進学し下宿したりと、広くない家の中でポツンと家内と私だけで、子供ネタがないため家内と話すことも減っていたが、そのとき、救世主のように現れたカメラ撮影は、家内も巻き込み、“フォト散歩”という共通の趣味となり、今は家内との会話に事欠かない。大学教員の職業柄、机に向かって読書や論文執筆が多い仕事で極めて運動量が少ないためメタボには警戒しているが、土曜日や日曜日の寺社仏閣、郊外で の“フォト散歩”は、全くと言ってよいぐらい歩かなかった私には、快食(メタボには不都合か?)、快眠と大きな体調の改善をもたらしてくれている。また、以前は素通りのような拝観や見学であったが、“フォト散歩”では、ゆっくり、丁寧に、そして”新しい発見”を探すような視点で何時間も歩き回っており、郊外や里山では、ゆっくりした時間の流れ、鳥のサエズリ、綺麗な空気、美しい景色のなかで実に気分がすがすがしくなるし、その土地の歴史背景を前もって調べておけば、カナリ、賢くなった気持ちにもなっている。家内は家内で、来たこともない所、珍しい所へ連れてきてもらったと上機嫌で、これまた、都合が良く、本当に有難い。現在、作品は大学祭の写真展に出品したり、南埜のブログ(内緒にしておきます。同じカメラ趣味の某軽金属会社の部長とはコメントのやり取りをしているため)にも掲載したりしており、結構、楽しんでいる。

 写真は“引き算である”と先人は言っている。この“引き算”は、写真を始めた人は一つのフォトのなかに、あれもこれも撮ろうとして多くの情報を詰め込んでしまうため、主題がぼやけてしまうことを戒める言葉と解釈している。このことは、研究においても通じるところがあり、研究課題を決める(撮影作品の主題を決める)にしても、計画計画を立てる(撮影時期や場所を計画する)、材料や装置の選定・解析など実験を進める(現地に移動、撮影テクニック、レンズの選定など、構図の決定など)にしても、研究発表をする(作品に仕上げる)にしても、同じようなことがあると思っている。特に、学生が研究課題を立てたりすると主題がぼやけていたり、パワーポイントで発表資料を作成してくると、一枚のスライドにこれでもかと言うぐらい結果や考察を詰め込んでくることが多く、アピールする点が不明になっているミスを犯している。学生には、パワーポイントのスライドを芸術的に作成する必要はないが、発表会での聴衆に、一目でわかり、アピールが明確で、記憶(心)に残るスライドを作る必要があることを、カメラ撮影や作品を例に引きながら説明している。

カメラ愛好家は、デジカメの普及で急増しているらしい。昔からの銀塩カメラ(フィルムカメラ)の愛好者もおられると思うが、デジカメは、特に、撮った結果がすぐさま確認できる、それを見て取り直しできる、失敗作を見てその場で反省できる、失敗作は直ぐにカットできる、フィルム代と現像代が要らない、家でプリントできるなど、という便利さなど、気の短くなった現代人にはピッタシなのだろう。また、材料関係者にもカメラ愛好家が多いようにも思う。もちろん、近畿地方で気軽に出かけられるカメラ撮影スポットが限られているためかもしれないが、この3年間だけで、一眼レフと三脚をもった某軽金属会社役員、研究部長、某大学教授、材料系の先輩などの方々と、景勝地、神社やお寺、フラワーガーデン、温室等で、出会っている。皆さんとも、どこかでお会いすることがあるかもしれませんが、南埜を見かけたときは是非とも声を掛けていただきたい。そのときは、内緒のブログのアドレスをご紹介できれば・・・と思い、内心楽しみにしています。
 最後に、お目汚しですが、拙い作品をUPさせていただきます。お許しを。

 
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