一般社団法人 軽金属学会

  • お問い合わせ
  • English

エッセイ

研究生活での出会い

平成18年3月1日掲載

田中 寿宗

東海大学大学院工学研究科
金属材料工学専攻
大学院生(修士2年生)

 
 はじめに、この度の第109回軽金属学会秋季大会ポスターセッションにて、「最優秀ポスター賞」という名誉ある素晴らしい賞を頂けたことに対して、心より感謝申し上げると共に、たいへん誇りに思っております。さらにはこの受賞を機会にエッセイを執筆することとなり、理系の学生生活において久しぶりに“エッセイ”という文学的ワードをいざ目の前にした今、“何を書くべきか?”という少々のとまどいを覚えているのもまた現実です。このような気持ちでいた折、残り1枚になったカレンダーをふと見ると2005年も12月を残すのみ。試料を研磨しながら“あと数ヶ月で6年間の学生生活を終えることになるのか”と思い、過去を振り返ってみると、私にとっての研究生活は“たいへん濃密な時間であった”とつくづく感じました。そこでこの場をお借りして、学部4年生から現在までの研究生活において強く感じた事を、「出会い」をキーワードとして学生の視点からフランクに書かせて頂きたいと思います。    

私の所属は、東海大学の学生、ですが、4年生の時に宇宙飛翔体の構造材料を研究してみたいという思いと、さらに大学の教授の薦めもあって、宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部の佐藤英一助教授、北薗幸一助手(当時、現 首都大学東京)の下で研究を始めることとなりました。最初に感じた佐藤先生の印象を率直に言えば、「とにかくパワフル!」という一言に尽きるような気がします。そしてその印象は3年を経過した今でも変わることはありません。

 そのパワフルさは指導を受ける私にとって、研究の過程において、たいていの場合、追い風として働くのですが、時にはプレッシャーに感じることもありました。自分ではそのプレッシャーを跳ね返すことでわずかながら成長できたのでは・・・と思っているのですが。この佐藤先生との「出会い」が今となって考えてみれば、最初の大きな一歩であり、それ以降のたくさんの素晴らしい「出会い」を生み出すスタートとなりました。

次にやってきた私の研究生活の中での「出会い」は、佐藤研究室(以下佐藤研)の仲間です。佐藤研は一般的な大学の研究室とは異なり、東京大学を始めとする様々な大学からの学生で構成されています。それゆえ各々、学術的な背景や学生生活のスタイルの異なる仲間が集ったため、私にとっては学ぶことが非常に多い研究生活でした。研究が思うように進まなくなった時に相談をし合ったり、皆が登壇を控えた学会の前にはお互い助言をし合ったりなど、研究室が一丸となれるような素晴らしい仲間達でした。その仲間達とは研究室から一歩外に出て、鹿児島まで宇宙研のロケット発射場見学を兼ねて出かけ、続いて九州を一緒に旅するなど、学生生活で楽しい思い出を残すことが出来ました。研究室内外において友情を育むことができ、私にとってはかけがえの無い仲間達と貴重な時間を共有しました。

 私の研究テーマは「チタンの室温クリープ現象」(詳細はリレーエッセイ第21回参照)という特殊な現象を調査することです。私の知る限りでは、大きく分けて、我々とアメリカのM.J.Mills先生らの2つのチームによって主に研究がなされています。そのため、様々な学会等に参加しても、同じ現象に関して研究を行っている研究者との直接的な交流の機会はあまり持てませんでした。しかし、2005年2月にアメリカのサンフランシスコにて開催された国際学会において、ついにMills先生とお会いすることができました。その際に短い時間でしたが、佐藤先生やMills先生の学生を交えて、室温クリープ現象について熱いディスカッションが出来たことは、研究生活の中でも最良の経験であったと感じています。
 なぜなら、研究内容に関してお互いの考えを伝え合えたという達成感からのものも勿論ありますが、それ以上にMills先生との「出会い」によって、室温クリープ現象に関してより一層興味を抱けるようになり、Mills先生の論文を読んでいても文字から読み取れる材料学的な情報だけではなく、論文の背景にあるMills先生の雰囲気を含めた全体を読み取れたような気持ちになれるなどの、私にとってプラスになる要因ばかりを得られる事が出来たからです。
 このように研究生活の中において、様々な「出会い」があり、私にとって生涯の糧となる有意義な経験をさせて頂いたことは、佐藤先生、北薗先生をはじめ、研究室の仲間達のお陰と感謝するとともに、これからも一つ一つの「出会い」を大切にし、技術者として成長していけたらと思っております。

 
PAGE TOP