一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

攻撃は最大の防御

平成15年3月3日掲載

長村 光造

京都大学工学研究科
教授

 

 アルミニウムは21世紀の材料といわれているが、現在日本では年間400万トンの地金が使用されており、3分の2が輸入、3分の1が再生地金である。今後の世界の総需要は5000万トン、日本では500万トンを越え、そのうち再生地金が半分になると予測されている。その材料の特性として軽量で強いこと、再生しやすいこと等で、省エネルギー・省資源の観点から有効な材料と考えられている。航空機・鉄道車両・自動車などの輸送機器用材料、建築・土木構造材、飲料缶材等のさらなる用途の拡充が求められている。3月2日朝日新聞朝刊に、平成14年度はアルミ缶がスチール缶の生産個数を追い抜いたといううれしい記事があったが、しかし400万トンから500万トンへの量の増加は年率の成長を1%としたとき10年で達成される規模のものである。産業全体からみれば成長産業とはとてもいい難い部類に属しておりなんとも意気が上がらないことになる。この材料に携わる者として産業界、学会の総てが力を結集して元気が出る方策を考えて行かなければと危惧する次第である。

 既存の分野を充実させることは守備として大切であるが、元気を出すためにも新しい産業分野に目を向けることが大切ではなかろうか。極低温・宇宙・超高真空などのニューフロンティア分野では、最近の痛ましいコロンビアの事故のときの有識者のコメントにもっと優れた耐熱材料があれば、と悔しい思いをしたのは筆者ひとりでなかったと思う。太陽エネルギー・風力発電・エネルギー貯蔵などの新エネルギー分野の一つに、搬送可能な超伝導磁気エネルギー貯蔵装置が期待されているが、超伝導の安定化要素をアルミ化することにより随分軽量になると言われている。ヒューマン工学・医療・福祉・介護・レジャーなどの生活関連分野では、とくに福祉・介護の分野で、軽金属材料がもっと広く取り入れられるように研究開発が必要と考えられる。超高速輸送・都市機能高度化などの社会基盤整備分野ではFSW等の接合技術の発展もあり、軽量・高強度でかつリサイクル性を十分に考慮した材料開発が期待される。
 
 以上のようなニーズの開拓もさることながら、アルミニウムという材料の新しい可能性、つまりシーズの開拓もさらに重要と考えられる。超耐食性材料、軽量低ヤング率材料、軽量高剛性材料、1GPa級高強度材料、超耐熱材料、軽量磁性材料、耐摩耗材料等々にそれらの複合化等々、確かに現状では経済性、特性の鮮明性において問題があるが、一歩でもという不断の努力が新しいブレークスルーにつながると信じている。

 第3の点は21世紀は環境の時代といわれており、アルミニウム産業においても省エネルギー・環境負荷軽減の技術開発が強く求められている。これまでも各関連企業や日本アルミニウム協会を中心に完全リサイクル材料のモデルの提案、車両におけるモノアロイ化、缶材の流通システムの効率化、ドロス等の廃棄物の再利用化等々の研究・調査が広く行われてきた。これらの先人の優れた成果を積み上げて、さらに先鋭的な理想として「ゼロエミッションのアルミニウム・マスフローシステム」が可能か、学会・協会が力をあわせて真剣に考える好機に来ているのではないだろうか。

 
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