一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

新緑の風薫る姫路にて

平成15年6月1日掲載

沖 善成

三協アルミニウム工業株式会社
常務執行役員

 

 平成15年5月17日と18日の両日にわたって、兵庫県立姫路工業大学において、第104回春期大会が開催された。平成11年に登録有形文化財となったゆりの木会館と、今回の総会会場とした講堂は、旧制姫路高等学校の建物であり、大変趣のあるキャンパスであった。神戸大学が、姫路分校としても使用していたものである。

 お昼には、恒例となった名誉会員の方々との交流会があった。懐かしい先生方のお顔を拝見しながら、この学会に入った頃のことを思い出していた。この学会の良いところは、80代から20代の人たちまで、軽金属に関わる技術の研究をつうじて、本当に親しく交流できることである。学会が単に学位取得の論文発表の場になりがちな昨今、比較的、産業界の色が濃いことが、良い意味で働いているように思っている。

 田舎に戻ってアルミ関連企業に入社したとき、当学会の副会長もなさった故雄谷重夫早大名誉教授から、入会を勧められたのがきっかけであった。機械工学科出身の者としては、金属学会のアルミ版かと最初は思ったが、材料のみならず加工も含めて、軽金属に関することであれば、すべて受け入れるといった姿勢で、非常に関わりやすい学会であった。

 午後から、文化財の講堂で今年度第1回定時総会と表彰式がおこなわれ、昨年度の事業報告ならびに決算報告と、今年度の事業計画、収支予算の説明がおこなわれ承認された。また、今年度から全会員による投票を経た評議員と、会長・副会長をはじめとした理事・監事の新役員案が紹介され承認を得た。新会長には、2期ぶりに産業界から日本軽金属株式会社 佐藤薫郷社長が選任された。

 総会の後、軽金属学会賞の表彰式がおこなわれた。最初に、選考委員会から審査報告がなされたあと、表彰式に移った。第6回軽金属学会賞に、日本大学 金子純一教授が選ばれた。軽金属学会特別功労賞を、財団法人軽金属奨学会 小南一郎理事長が受賞された。第5回軽金属学会功労賞には、日本軽金属株式会社 岡庭 茂参与、株式会社浅沼技研 杉浦泰夫技術顧問、ハイドロアルミニウム・ジャパン株式会社 福岡 潔技術顧問の3名の方々が受賞された。また、今年度から設けられた第1回軽金属功績賞には、住友軽金属工業株式会社 宇野照生氏、三菱アルミニウム株式会社 大堀紘一氏、東京大学 管野幹宏教授が選ばれた。

 しばらく休憩の後、日本大学 金子純一教授による「粉末冶金法によるアルミニウムおよびマグネシウム材料」と題した軽金属学会賞受賞講演がおこなわれた。粉末冶金法は、強度・組織を扱う軽金属材料学と、塑性加工・鋳造凝固を対象とする材料加工プロセスとの中間領域に位置しており、合金設計の自由度を高める材料プロセスある。先端的材料開発には、新しい材料プロセスが必要であるという内容であった。

 その後、市民フォーラムとして特別講演がおこなわれ、鍛冶師(芸術家)52代明珍宗理氏による「伝統の技―明珍火箸―」のお話があった。室町時代までさかのぼるという明珍家の今に至るまでの変遷をうかがったあと、「たたら製鉄」で造られた「玉鋼」を材料とした火箸の、輝きのある、澄んだサウンドが会場に響いた。

 鎧作りの家系であった明珍家が、第2次世界大戦中は、材料が入手できず苦労されて、戦後、火箸に着目して成功したが、生活様式の変化で売れなくなり、今度は、鉄製火箸の風鈴を製作するようになった経緯を、実感を込めてお話された。非常に古い家系で、伝統的な品物を作られているように見えるなかで、常に新製品開発と新しい材料の利用を考えていらっしゃる姿勢は、製造メーカにとって忘れてはならないことを教えてくれるものであった。最近は、さらにチタンを使ったものも試作されている。

 会員懇親会は、会場を姫路駅前のホテルに移し夕刻始まった。姫路工業大学 鈴木 胖学長も来賓として出席され、20代から80代の会員の皆さんと楽しいひとときをすごした。大学からは教授、助教授、講師、助手の方はいうに及ばず大学院生や四年生まで、会社からも社長や専務、そして相談役や元役員の方々をはじめとして、部課長から若い社員の人まで、一堂に会して和気あいあいと酌み交わし歓談できる場は学会なればこそと、あらためて実感して夜のふけるまで、姫路のひと時を楽しんだ次第である。

写真(上から)
1 登録有形文化財の旧制姫路高等学校講堂前の著者
2 講堂でおこなわれた総会」
3 鍛冶師(芸術家)明珍宗理氏
4 懇親会での鏡割り

 
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