軽金属のお話

マグネシウムの歴史

5.1 輸送機器

(2)自動車

 航空機エンジン部品としての経験からインディアナポリスのカーレースでの競走車にマグネシウム合金鋳物が用いられるようになり、1921年にマグネシウム合金製ピストンを用いた車が優勝しています。1948年にはクランクケース、過給器、カムカバーなどにマグネシウム合金鋳物が使われました。マグネシウム合金製のホイール(車輪)は1950年に使われ始め、1955年には全参加者に装着されました。ホイールの合金として当初AZ81合金が使用されましたが、前述のように、マイクロポロシティーが問題になり、1990年にはZE41合金が採用されました。
1959年の優勝者および2位の車にはマグネシウム合金板もつかわれており、その後の競走車にも同様のマグネシウム合金が採用されています。この種のオールマグネシウム車はすでに1957年Zora Akus-Duntovの設計・製作したシボレーコルベット(Chevrolet Corvette)“SS”がフロリダ(Florida)のSebringにおいてラップレコードを出しており、この車は1967年にインディアナポリス自動車競走場博物館(Indianapolis Motor Speedway Museum)に寄贈されました。
一般車でのマグネシウムの使用は古くは、1927年の書にオートバイ(Motor-cycle)部品としての使用がみられます。具体的には、ドイツ車オペルのオイルポンプに重力鋳造品が使用されていましたが、1932年にダイカスト品に代わっています。自動車部品としては、1940年頃までにマグネシウム合金鋳造品またはまたは展伸材が連結稈などの部品や各種筐体10数点に使用されています。また、乗用車およびその他の車両、ガソリンカー、バス等での車体や部品にも用いられていますが、本格的かつ多量にマグネシウム合金を車に採用したのは1946年以後のドイツのクランクケース、トランスミッションハウジング、クラッチカバーなどにマグネシウム合金鋳物が用いられています。また、1960年代にポルシェのディーゼルエンジンハウジングカバーなど5点の部品にマグネシウム合金が採用されています。
アメリカでは1952年型クライスター車にステアリングカラムブラケットなど15点のマグネシウム製部品を亜鉛や鋳鉄製部品に代えて用い、車体重量を1/3以下に減量したといわれています。
日本でも1960年代にマツダクーペのクランクハウジング、フロントカバー、クラッチハウジング、バルブロッカーカバー、オイルパン、トランスミッションハウジングなどにAZ63やAZ91合金鋳物が用いられました。世界的にはトラック用の車体、フロワー、下枠、過給機エンペラなどにマグネシウム合金が使用されていました。しかし、1970年中期のマグネシウムの価格改定や水冷エンジン車などの台頭によってその後世界的に車両でのマグネシウム仕様があまり進展していません。
1940-70年代における車両へのマグネシウム合金の応用は競走車や乗用車に限らずバンやトラック、トレーラーなどにみられ、その後も、クラッチペダルなど数点の部品にマグネシウムダイカスト品が用いられていました。押出材や板材も利用されており、全溶接マグネシウム車の軍用トラックも出現しました。
イタリアではフィアット自動車会社(Fiat Motor Co.)は1952年からインディアナポリス型のレースに車輪を供給してきました。1966年までは砂型・金型鋳造または鍛造によって製造していましたが、コスト高で、1967年にフィアットデノ(Fiat Dino)を発売するにあたってダイカスト法を採用しました。車輪ばかりではなく、9種類の部品をもマグネシウムダイカスト合金で製造していました。
世相はその後しばらくは低迷期となりましたが、1980年代に入り、欧米および日本において、たとえばマニホールド(多岐管)、ロッカーアームカバーなどのカバー類、ロックハウジングのようなハウジング類、ホイールなどにマグネシウム部品が使われ始めてきました。一方、世界的な車の普及にともなって大気汚染などの環境破壊対策の一つとして燃費改善が重要な社会問題となり、1980年後期にはその方策の重要な柱として車の軽量化が課題となってマグネシウム合金が脚光を浴びました。とくに、アメリカのCAFE(Corporate Average of Fuel Economy:企業別平均燃料費)法案による1988年を基準とした各年の燃費向上計画に刺激されて、アメリカを中心に大幅なマグネシウム合金部品の採用が検討されてきました。特にダイカスト部品として、ステアリングホイール(ハンドル)、ステアリングブラケット、シートフレーム、ホイール、インストルメント(計器)パネル、エンジンケース、その他各種機器系の筐体類などエンジン以外の構造部品に及んでいました。具体的な例として、1995年に米国のいわゆるビッグスリー、すなわちフォード(Ford)、ジーエム(General Motors)、およびクライスラー(Chrysler)の3社が採用しているマグネシウム合金部品は社内装備品関係5点、伝道装置関係6点、ブレーキ/クラッチ/アクセル関係5点、ステアリング関係7点、エンジン関係4点その他5点です。
この時点においてさらに将来、車台関係で交差ビーム、計器パネル、鑑賞補強材、車輪など、車体として格子開口部補強、ドア(骨組み、内部、蝶番)、助手席エアーバッグ筐体、座席基盤、座席基盤の調節伝動装置など、駆動系として伝動装置ケースおよびエンジンブロック、および電気自動車のモータ部品などにマグネシウム合金が用いられると見込んでいます。
1990年前後における米国での社用マグネシウムダイカスト部品の使用増加は、欧州での伸びとともに、世界のマグネシウムダイカストの大きな需要増加に反映しました。
なお、ほかに自動車鋳造部品として、シリンダヘッドカバーなど6点の部品および展伸材として外装版、内装部材などの使用経験も得られています。
日本の乗用車におけるマグネシウムの利用状況は欧米に比べてかなり遅れているといえましょう。これは、むしろ軽量化が早く行われ、鋼材などの箔肉化などによって燃費の良好な車が普及しているためであるといわれています。しかし、最近は比較的高級な車においてマグネシウム部品の利用が進められており、具体的には座席フレームやステアリング部材などに使用されています。
次に、その他の輸送関連機器におけるマグネシウム合金の使用経験について述べます。