一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

軽金属学会で鉄のお話

平成29年7月1日掲載

渡辺 義見

名古屋工業大学
教授

 

 純鉄,という程ではない。しかし,一般人よりは鉄濃度が高い自覚がある。鉄には色々な種類があるものの,乗り鉄に近いと思っている。鉄の道を究める,とまでは言わないが,旧国鉄くらいは全線乗りつぶしが目標である。我が長男にも,札幌時代の北斗星やトワイライトエクスプレスの乗車に始まり,アメリカのアムトラック,ユーロスターやドイツの寝台列車など,機会がある度に鉄道を利用した旅を計画し(アムトラック旅行については,信州大学付属図書館繊維学部分館発行のLibrary28巻に掲載されている),誕生前から英才教育を施してきた。その息子が最近,JR 私鉄 全線乗りつぶし地図帳 (JTBのムック)という乗り鉄のバイブルを購入し,几帳面にも自分の乗った線を赤ペンで塗りつぶしていたのである。著者も時刻表についている鉄道地図にマーカーで載った区間に印を付けていたが,さすが市販の専門書。私鉄や地下鉄も網羅している。うらやましそうにその本を眺めていたら,家内が私のために,もう一冊購入してくれた。感謝感激である。我が家には,同じ本が二冊も並ぶことになるが,私鉄や地下鉄や路面電車も掲載されているため,ゴールが一気に遠くなってしまった。

 海外での移動も鉄道を選択することが多い。特にドイツは鉄道網が発達しているので,利用価値が高い。ドイツでの鉄道に関しては,三輪先生が既に第56回のエッセイにお書きになっているが,二つほどユニークな鉄道を紹介する。

 まずは,水の力で動くケーブルカーである。ケーブルカーとは,2つの編成の列車がケーブルで結ばれており,片方が麓の駅を出発すると時に,もう片方も同山頂の駅を出発し,途中ですれ違う,というものである。この動力に水のみを使うものが,写真1に示すドイツのヴィースバーデンという温泉地にあるネロベルク登山鉄道である。原理は簡単である。山頂の駅に停まっている車輌のタンクに大量の水をくみ入れ,同時に麓の駅の車輌のタンクから水を抜く。両車輌はケーブルで結ばれているので,電気などのエネルギーを使わなくてもし,山頂の駅に停まっていた車輌が重力に従い下るのと同時に,麓の車輌は登っていける,というとてもエコなシステムである。ヴィースバーデンはフランクフルト国際空港からも近いので,渡航当日の宿泊先にも最適である。

 鉄道の特長は高速大量輸送であるが,その真逆なシチュエーションが軽便鉄道である。小さな列車がゆっくり動く様は絵になるが,モータリゼーションの波にのまれ,鉄道の最大の特長を持たぬ軽便鉄道は絶滅の危機にある。日本でも三岐鉄道北勢線などわずかしかない。しかし,奇跡的に旧東ドイツには多くが残っている。写真2はドイツ北東のシュトラールズント近くにあるリューゲン島のケースである。レールが3本あるが,両端が標準軌の線路,左2本が軽便鉄道の線路である。レール間隔がとても狭いことがおわかり頂けるであろう。必要最小限の設備で動いている感があり,省エネ時代の現在に,実は最も適した移動手段なのかもしれない。

 一週遅れの最先端技術が鉄に詰まっている。しかし,絶滅寸前の鉄もたくさんある。みなさん,なるべく鉄を利用し,鉄がさび付くことを阻止して下さい。

 
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