一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

研究室の修学旅行

平成28年11月1日掲載

佐々木 元

広島大学大学院工学研究院
教授

 

 私の研究室(工学研究院 材料・生産加工部門 材料物理学研究室)では,ここ数年,修士2年生の研究公開の場として海外の国際学会での発表を実施している.これを私は,研究室の修学旅行と称している.国際学会といっても研究費は潤沢にはないので,近場の韓国である.私の専門分野である複合材料は,比較的規模の小さな国際学会が多くあるため,発表の場には困らない.多くは,学生でもoralでの発表が可能である.また,必ず韓国の大学の研究室との交流会を行って親睦を深めており,国際化への意識を高めることを研究室の方針としている.

 近年の学生は,意欲や学力の低下が問題視されことが多いが,少なくとも英語力は昔の学生より格段に向上していると感じる.今年は,10月16日から19日の日程で,韓国・プサンの国際会議場BEXCOで開催された10th Asian-Australasian Conference on Composite Materials (ACCM-10)に,教員3名,学生4名の計7名で参加した.旅費,宿泊費を抑える為,広島から博多までの新幹線は,こだま専用の格安切符を利用し,福岡―プサンは一人総額往復1万5千円程度のLCC航空会社を利用した.また,宿泊は会場近辺のコンドミニアムを借り,全員がそこに泊まり込んだ.会議の参加登録料は高額であったが,東京で開催される国内学会と同程度の出費であったので,教員としてはありがたかった.会議では様々なセッションが企画されていたが,我々は,金属基複合材料のセッションでの発表であった.研究室からの申し込み件数が多かったためか,私はkeynote lectureをさせていただいた.学生の発表は,内容の関係でoral 2件,poster 2件とした.Posterの1件は,複合材料用Alマトリックス合金の開発と称し,現在,研究中の鋳造用モノリシック合金をこじつけで発表させた.Oralでは,学生には,硬質のCr基ナノコンポジットに関する研究と,鉄鋼系複合材料に関する研究発表を行ってもらった.特に鉄鋼系複合材料の話は,聴衆に興味を持ってもらい,多くの質問をいただいた.事前の発表練習では,スライド中の英文に非常に多くの間違いがあったり,まともに英語が喋れなかったりで,さんざんであり,どうなることかと思ったが,本番ではびっくりするほど,立派な発表をしてくれた.Poster発表のもう一人の学生は,Best presentation賞をもらい,良い思い出ができたようである.高いハードルを設定したと思ったが,全員が見事にクリアしてくれた.

 個人的な感想であるが,国内の学会で発表するよりも学生の成長は大きいと感じた.また,会議終了後は,プサンにある東義大学校のLee Sang Pill 先生(私の研究室の卒業生)の研究室と交流を行った.懇親の場では,焼き肉を食しながら,お互いにお酒を酌み交わし,韓国名物,爆弾酒(ビールに焼酎を入れたもの)にチャレンジしていた.アルコールが入ると,はずかしさがなくなるのか,当研究室の学生も積極的に英語で会話しており,笑い声が絶えなかった.日本人学生にとっても韓国人学生にとっても良い機会を提供できたと思っている.学生にとっては,楽しい旅行だったようで,会議中,私の目をすり抜けて自分たちでいろいろと冒険にいっていたようである.皆,帰りには山のようなお土産をスーツケースに詰め込んでいた.学生と旅行に行っていろいろと話をすると普段は聞けないような本音が聞けるのでこちらとしても面白いし,今後の学生指導についての参考にもなった.毎度のことだが,良い企画を行ったと自画自賛している.今後も,是非続けていきたいと思う.

図1 ACCM10 welcome reception で研究室学生とともに

図2 近代的な高層建物が立ち並ぶプサンの街並み

 
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