一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

金属工学の再構築

平成19年5月7日掲載

世利 修美

室蘭工業大学
教授

 

 21世紀の社会の概念や発想は「作る社会」から「使う社会」への変換が求められる、と言われている。すなわち、大量生産・大量消費・大量廃棄の直線型ではなく少量生産・長寿命・環境保全の循環再生型社会に変わっていく、と言われている。
 革命とは改善や改良と言った意味ではなく、根本的にしかも急激に従来の社会の構造を変革することである。18世紀のイギリスの社会構造は産業革命によって根本的に変換された。家内手工業的な少量生産方式に変わって、巨大組織や高価な機械設備を用いた大工場大量生産方式が確立し、規模の経済が有効性を持つようになった。20世紀後半から急激に発展した情報革命の技術の本質は「脱大量化」とも言われている。消費者個々の要求や嗜好に応じた多種多様なニーズのもとに、時々刻々の状況に応じた多品種少量生産の手段を提供するのが情報革命の本性である。
 21世紀は環境革命とも言われている。安心安全や環境保全が従来にも増して社会、特に技術に関するあり方を規制するといわれている。限りある鉱物資源に大量のエネルギーを費やして得られた数多くの金属製品は大量に廃棄されている。鉱物資源やエネルギーの枯渇が今世紀中に視野に入り、環境汚染や異常気象が生存権や環境権をおかし始めた。地球環境を維持することなしに21世紀の人類は継続できないとも言われている。

 このような今日の変革期において、金属工学の分野はどう対処し、貢献すればいいのか・・・。

 ヒントは身近に起こっている現象に潜んでいるような気がする。一例を挙げる。維持管理に問題のある建造物や施設を地方の都市ではよく目にする。錆だらけの橋や建物が目に付き、保守点検されていない公共設備が最近多いような気がする。それが自治体の経費削減のためなのか、単なる見逃しかは分からないが、今日日本中にある莫大な数の人工構造物を維持管理するには膨大な費用が毎年継続して必要になるのは明らかである。
 もはや日本の社会資本は整ったものと思われる。好むと好まざるにかかわらず、今日の日本のテクノロジーは「作る」より「使う」あるいは「守り」、「活用する」時代に入っているのではないだろうか。公共建造物ばかりではなく個人の建造物も同じようなことが言える。安いが耐久性の短い製品を大量につくることに対しこれから社会の理解は得られなくなり、長く簡単に維持管理できる技術や製品が要求される時代が来ているような気がする。「作る」テクノロジーより「使う」テクノロジーが要求されているのではないだろうか。
 学問としての金属工学もそれに答えるべく、学問体系を再構築すべきと考える。これから本格的に始まる資源循環サイクル社会を視野に入れ、従来の分野を再考し、生産・消費・廃棄の循環再生プロセスに適応した新しい金属工学を社会に提案していくことが重要と考える。これには、どんな学問体系が中・長期的に将来必要で、どんな人材をどの分野にどれくらい供給できるかといった戦略を立てる時期が来ているものと思われる。従来の概念にとらわれず、産官学の英知を集めて革命的に金属工学を新しく確立する必要があるものと思われる。

 The only thing we know about the future is that it is going to be different.
 (未来についてわかっている唯一のことは今とは違うという事である。P.F.Drucker)

 
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