一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

アルミニウムのランキングをあげよう

平成14年12月1日掲載

永田 公二

住友軽金属工業株式会社 専務取締役
研究開発センター所長

 

最近、新聞、雑誌に週単位、月単位での売れ筋商品や行って見たい観光地/レストランの類のランキングを見かけます。"こんなものが売れているのか、こんな場所に人気があるのか"と、見てるだけ結構面白いものです。ランキングといえば、昔からプロ野球選手の成績ランキングはありましたが。少々硬いビジネス雑誌等には、会社の財務諸表に関するランキングが取り扱われる事も多く、なぜかドキッとさせられる事があります。環境庁による企業の環境取組みランキングの計画もあるようです。この様な比較的評価基準のはっきりしている場合にはランキング結果を冷静に眺めておれますが、最近、スイスのビジネススクールが発表した国力に関する国際競争力ランキングや世界の大学のランキング等になりますと、国内総生産(GDP)600兆円に迫る世界第二位の経済大国日本の国際競争力が欧米の先進国はもとより台湾、韓国、マレーシアを下回る30位に、大学のランクにいたっては最下位の49位という、あまりにも酷い評価結果になっているのを目にします、"評価基準が納得できない"と、いつの間にか愛国者になって憤慨しています。もっとも、バブル絶頂期に"ジャパン・アズ・No1"と煽てられた時も"そんな事はない、それはあまりにも過大評価"と思ったものですが。

 昨今の世界経済は、中国の躍進、米国の復活、EU圏の順調な立ち上り等といっためまぐるしい変化があります。これに対する我国の対応には、時に、立ち遅れや、ある時には、右へならえとばかりの浮き足立った横並びの対応もあり、これをマスコミが大袈裟に伝える為事態の本質が見えにくくなり、これに先の世界国力ランキング結果等が加わると、益々我国の将来が悲観的に見えることがあります。 しかし、我国は我国らしく、"スロー・アンド・ステディー"なやり方で、このグローバル規模での荒波を乗りきろうとしているのが本当のところでしょう。いつの時代も変わらない我国の強み、"リーダーから実務を担っている全ての人々までが勤勉で、現物・実体に則して物事を考え、処理していく"姿勢さえ失わなければ大丈夫な気がします。

 国際的な競争条理の中での勝ち残りをかけて、我国の最大の強みである"物づくり"を維持し、強化していく為の方策、組織の再編成が各方面で実行されようとしています。経済産業省、文部科学省ではナノテクノロジー・材料分野への重点的な予算配分の計画を進めていますし,日本金属学会では材料開発の政策提言等を目的とした材料戦略委員会活動を産官学の関係者を一堂に集めて一年前から行なっています。目に見える経済効果が現われるまでにはかなりの時間を要するでしょうが、十分な予算のもとで産官学が本気で連携するはじめての試みであり、大いなる成果が期待されます。

 我々の関係するアルミニウム圧延業界においても、産官学の協力のもとでアルミニウムの技術開発戦略策定(ロードマップ作成)が行なわれました。その検討結果は、軽金属誌、第50巻第5号(2000)に掲載され、優先して取組むべき技術課題が列挙されています。詳細についてはこれをご覧になっていただくとして,重要なことは、軽量で、循環型で、LCA的にも優れた、まさに21世紀型の魅力的なこの素材を、若い人達に強い関心・認識を持ってもらう点です。志を持った、チャレンジ精神の旺盛な若い人がこのアルミニウム産業に参加してくれない事には日本におけるこの産業の将来に前途はありません。かつての工学部の学生にとって、春の工場見学、夏の工場実習は当然の行事であったような気がしますが、今では工場見学ですら稀なようです。大学を頂点とする地道な学校教育と共に大学と産業界を繋ぐインターシップ制度の復活・定着による人材育成を強く望みます。

 そんな中で、最近、学生さんに接触する機会が何度かありました。その一つは、来年就職を希望する学生さん達との面接でした。アルミニウムの会社を選んだ理由に、異口同音、将来における"自動車へのアルミの適用"を挙げており極めて常識的な回答で納得しましたが、当社を知ったのがホームページによるという学生さんが結構多く、時代の変化を実感しました。また、講義にアルミ材料が登場する事はほとんど無いとの発言も多く、これには驚き、失望を禁じえませんでした。ましてや、卒論のテーマにアルミを選んでいるケースは稀であり,大学ではアルミ(のみならず、オールドマテリアル全般)がマイナーになってしまっている事実を実感させられました。これでは、我々のアルミ業界が超高収益企業になって各種の"ランキング"の上位を占めて彼らの目に止まらない限り、優秀な学生さんが集まらないのではと一種の恐怖感を持ちました。尤も、弊社の場合、入社後3年間を基礎教育期間としてOJT的な指導をしていますが、研修終了時の報告会の様子を見ますと何れの人も立派な研究者・技術者に育っており、彼らの潜在能力は結構高いと一安心していますが。なお、弊社では夏季、冬季における学生さんの実習を積極的に受け入れておりますので、是非ご利用してください。

 最後に、自動車へのアルミ材料適用の追い風の状況をご紹介しておきます。国内では、経済産業省によるスーパーメタルプロジェクト(平成9年~13年)の後継プロジェクトとして自動車用アルミ板材の開発研究を立ち上げようとしていますし、EUでは、2006年以降廃車時の再利用する材料の割合(リサイクル実効率)を85%以上、2015年以降は95%以上を求める環境規制法案を制定,施行することをEU各国に求めています。また、EU自動車工業会の自主協定として、2008年以降のCO2排出量140g/km以下('95年比マイナス25%)、2012年以降は120g/km以下、というのがあります。現在、EUのアルミ圧延大手メーカーは挙って自動車向けアルミ合金板の生産ラインの整備、増強に取組んでいます。このように、軽量で、リサイクル性に富む材料を多用する動きが現実のものになってきました。昨年度の我国のアルミ圧延品出荷量は約230万トンです。この内自動車向けの出荷量は、熱交換器向けの11万トンを別にしますと、僅か0。5万トン程度に過ぎません。仮に国内で生産される乗用車の半数のフードにだけアルミ合金板が使用されるとした場合でも、年間で6万トンに及ぶ新規の需要が創製される事になります。アルミの適用については、フードを始めかなり多くの部位について本格的な検討が進んでおり、これらが実現しますと新規の需要として年間数十万トンにも達しそうです。

 軽量材料の第一候補は勿論アルミですが、ステンレス鋼や樹脂といった手強い競合材料も控えており予断は許しません。自動車メーカーがアルミを選ぶか否かは、材料としての基本特性に優れる事は無論の事、生産・組立ラインにフィットする事に加え、何よりも彼らにとってリーゾナブルな価格であるかどうかにかかっています。今後の産官学を挙げてのプロジェクト等によってこれらの厳しいハードルをクリアーしていく事を切に希望します。そして、近い将来、研究希望者の数、世界的にみた研究レベル、軽金属学会誌のレベル、学生の就職希望対象業種、企業財務諸表等などの各分野で、アルミに関連する事項が高いランキングを占める事を夢見て筆をおきます。

 
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